専門医による
目の病気の解説
眼形成・涙道
涙道疾患
眼形成・涙道
涙道疾患
眼科専門医星野 彰宏
ほしの眼科 院長
流涙症とは文字通り涙があふれ出て、涙目になる状態のことを言います。涙によって目が潤んだ状態では見づらさの原因にもなりますし、涙以外にも目やにが出たり、目の周りに炎症を起こすことによってただれたりすることもあります。
図1のように、涙は主に上まぶたの外側にある涙腺から分泌され、目の表面を潤したり、汚れを洗い流したり、酸素や栄養などを角膜(くろめ)に供給するといった役割があります。それから涙は目頭にある涙点から涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻腔に流れ出ます。
涙点から鼻腔までの通り道を涙道と言います。
流涙症の原因は「分泌性流涙」と「導涙性流涙」に大別されます。
分泌性流涙とは、目にゴミが入ったり、逆まつ毛や目を擦って傷ができたなどの外的刺激があったり、結膜炎や角膜炎、ドライアイなどが原因で涙が過剰に分泌される状態のことを言います。
導涙性流涙とは、目頭にある涙点から鼻に通り抜ける排水管(涙道)が何らかの原因で詰まることによって、涙や目やにが溜まってしまう状態のことを言います。
導涙性流涙(涙道閉塞)は多くの場合が原因不明で、中年以降の女性に多い疾患とされています。
最近では抗がん剤の一種であるTS-1内服薬の副作用で涙道粘膜が障害され、詰まってしまうことが知られています。
また、先天性鼻涙管閉塞といって生まれつき涙道が詰まっている子もいます。(有病率は5~20%と報告されております。)
導涙性流涙(涙道閉塞)に対しては、人工涙液の点眼などで目やにを洗い流したり、感染予防のため抗菌剤点眼を処方したりして対症療法を行うこともありますが、根治治療は手術療法しかありません。
涙道閉塞は閉塞部位によって、涙点閉塞、涙小管閉塞、鼻涙管閉塞(図2)と大別されます。
涙点閉塞の治療
入り口にあたる涙点閉塞だけであれば、そこを切開するだけで治癒するケースもあります。再閉塞予防のため涙管チューブを挿入することもあります。
涙小管閉塞
涙小管閉塞の場合は涙道内視鏡で観察しながら閉塞部位を解除して涙管チューブを挿入するといった手術を行います。
鼻涙管閉塞
鼻涙管閉塞も涙道内視鏡を用いて涙管チューブを挿入する手術を第一選択として行います。
涙道内視鏡手術
涙道内視鏡手術とは、涙点より0.9㎜径の非常に細いカメラを涙道内に挿入して、画像を見ながら詰まっている部位を穿破して、うまく開通したらシリコーン製の涙管チューブを2.3ヶ月ほど留置しておく手術です。涙点をほんの少し切開する程度なので、傷跡は目立たず、局所麻酔下で行えるため体への負担が小さく、手術時間は20分~30分前後、日帰りで行えるといったメリットがあります。ただし、手術の成功率が90%と必ずしも全員がうまくいくわけではありません。また、約30%の方が涙管チューブを抜いたあと、しばらくしてから再閉塞を起こし、2回目、3回目と再手術を行うケースもあります。
涙道内視鏡ではうまく開通できなかったり、手術自体はうまくいっても再閉塞を繰り返したりする場合は、後述する新たにバイパスをつくる手術(涙嚢鼻腔吻合術)を検討します。
時々、閉塞部位で菌が増殖し、感染症を起こしてしまうケースがあります。
涙小管に感染を起こすことを涙小管炎、鼻涙管閉塞が原因で涙嚢に感染を起こすことを涙嚢炎と言います。
涙小管
涙小管炎の場合、長期にわたって目やにが続き、結膜炎として点眼治療を受けているにもかかわらず、改善しない患者さんに時々ある疾患で、涙小管内に石のように硬い菌の塊が溜まっていることがあります。治療は菌塊を除去して涙管チューブを挿入します。
涙嚢炎
涙嚢炎は急激に炎症を起こして目頭が腫れて痛みを伴う「急性涙嚢炎」と、痛みや腫れはありませんが常に目やにが出て、目頭を押さえると膿のようなものが逆流してくる「慢性涙嚢炎」があります。
急性涙嚢炎は、まずは抗生剤の全身投与で炎症を緩和させたあと、後日手術の計画を立てます。その場合は涙嚢鼻腔吻合術を行います。
慢性涙嚢炎に関しては、通常の鼻涙管閉塞と同じで、まずは涙道内視鏡手術を第一選択で行います。
涙嚢鼻腔吻合術
涙嚢鼻腔吻合術とは、目頭と鼻の間で2㎝ほど皮膚切開をして、歯医者さんのようにドリルで鼻の骨の一部を削って穴を開け、涙嚢と鼻粘膜をつなぎ合わせて新たにバイパスをつくるといった方法です。
局所麻酔下で行うことができますが、涙道内視鏡手術に比べると体への負担が大きい手術ですので、5日間の入院が必要で、手術時間は1時間半~2時間程度かかります。
皮膚を切開するため、時間とともにだんだん目立たなくなるものの、いくらかは傷跡が残りますが、確実に中に溜まった膿を取り除くことができ、成功率も95%以上と涙道内視鏡手術より高い治療効果が期待できます。
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