専門医による
目の病気の解説
斜視弱視・小児眼科
大人の斜視
斜視弱視・小児眼科
大人の斜視
眼科専門医横山 吉美
JCHO中京病院 眼科 医長
大人になってから起こる斜視には、大きく分けて二つあります。一つは間欠性外斜視や先天性上斜筋麻痺など小児期からある斜視が、小児期には両眼視できていたものの大人になり徐々に両眼視できなくなる場合です。もう一つは、それまで全く斜視がなかった人が、ある日突然または徐々に斜視が出てくる場合(後天性斜視)です。どちらの場合も以前は両眼視(両眼視については子供の斜視のページを参照)できていた場合が多いため、斜視が出てきたときに複視(ものが二重に見える)を自覚します。
後者の場合はとくにその原因を調べる必要があります。複視をきたす疾患には、脳神経麻痺、脳動脈瘤、脳腫瘍、脳梗塞、脳出血といった脳の疾患、甲状腺眼症、重症筋無力症など全身の病気があります。脳の病気や全身の病気でも、はじめは眼だけの症状しかない場合もありますので注意が必要です。
原因となる病気があれば、その治療を優先します。
脳神経のうち、眼運動神経といって眼の動きに関係のある神経は動眼神経、滑車神経、外転神経の三つがあります。これらの神経が何かの原因で障害されると眼の動きが悪くなり斜視となって、複視が生じます。例えば脳動脈瘤がこれらの神経を圧迫して症状を起こすこともあります。脳動脈瘤が破裂してしまうと命の危険が生じますし、脳腫瘍や脳梗塞、脳出血が見つかり治療が必要な場合があります。このため、脳を調べる必要があります。脳を調べてとくに異常がなかったという場合は、末梢循環不全による眼運動神経の障害である可能性があります。つまり、脳自体には異常はないが、糖尿病や高血圧、動脈硬化などが原因で眼運動神経に栄養を運ぶ血流が不十分になってしまい起こるものです。この場合は、自然回復が期待できます。
また、眼を動かす筋肉自体に異常が生じて起こるものもあります。代表的なものは甲状腺眼症と重症筋無力症です。甲状腺眼症は、甲状腺の病気が原因で眼を動かす筋肉に炎症が起きて腫れて硬くなってしまい、動きが悪くなる病気です。甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を伴う場合が多いため、内分泌内科での治療が必要となります。重症筋無力症は、体の中に筋肉が動くのを妨げる物質(自己抗体)ができてしまい、筋肉がうまく動かなくなってしまう病気です。はじめは眼の動きだけが障害されている場合でも、徐々に全身の動きが悪くなってしまう場合もあります。神経内科での治療が必要となります。どちらの病気も症状が出てから治療開始までが早いほうが治りやすいと言われており、早期診断、治療が大切です。
原因となる病気の治療がひと段落しても斜視が残っている場合は、複視を治すために斜視の治療を行います。治療としては、プリズム眼鏡や斜視手術となりますが、治療をしても眼の動きが元どおりになるというわけではありません。あくまでも正面視(まっすぐ見ている状態)のときに一つに見えるようにすることが治療の目標になります。手術の方法は、麻痺の程度によってかわります。麻痺の程度が強い場合は、筋移動術といって麻痺していない筋肉を移動して、麻痺している筋肉の作用を補うという手術を行います。また、麻痺していない方の眼の筋肉で調整することもあります。ただ眼の状態によってはプリズム眼鏡でうまく矯正することが難しく、手術も難しい場合があります。このような場合は、遮閉膜といって麻痺している方の眼の眼鏡レンズに曇りガラスのような効果を入れることで視力をおとして二重に見えるのを解消するという方法があります。
高齢者の複視の患者さんで、頭の中や全身の検査を詳しくしたが異常が見つからないということがあり、かといって末梢循環不全による眼運動神経の麻痺でもないという場合があります。近年、こういった患者さんの原因としてSagging eye syndromeが報告されています。Sagging eye syndromeとは、加齢性変化によって眼を動かす筋肉を支えている結合組織(プーリーと呼びます)が弱くなることで、眼を動かす筋肉の位置が変化して斜視を起こすものです。程度が軽い場合はプリズム眼鏡、程度が強い場合は手術で治療をします。
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