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【緑内障】低侵襲緑内障手術

緑内障
低侵襲ていしんしゅう緑内障りょくないしょう手術

高木 勇貴

緑内障
低侵襲ていしんしゅう緑内障りょくないしょう手術

眼科専門医高木 勇貴

JCHO中京病院 眼科

緑内障の治療方法とは

ここでは、一般論としての緑内障治療を説明させて頂きます。緑内障の治療の原則としては、眼の中の圧を下げることにより、進行抑制を目的としています。残念ながら現行の治療では、完全に進行を止める、または失われた視機能を取り戻すことは出来ません。その治療手段として、点眼治療・レーザー・手術などが挙げられます。眼圧を下げると言っても、どの程度・どのような手段で下げるのかを決定する必要があります。
そのために、①治療前の評価:まず可能であれば複数回に渡り治療前の眼圧を測定します。これは、眼圧はある程度変動があるので、その変動幅を事前に確認する必要があるためです。変動幅がわからないと、治療の効果が本当にあるのか?たまたまなのかが判断がつかなくなります。
②治療目標の設定:どの程度、眼圧をさげる必要があるのか、目標眼圧を設定します。一般的には治療前の20-30%下げるといいと言われています。但し、例えば治療前の眼圧が50mmHgの方は、30%下げてもまだ35mmHgであり、正常とされる20mmHg以下を上回っておりもっと下げる必要があります。
③治療方法の決定:先に決定した目標眼圧を達成するための治療法を選択します。その方の、緑内障の状態・社会的状況・性格・要望などを含めて、検討決定していきます。先ほどの著しい高眼圧の方は、最初から手術を選択されることもあります。
④眼圧下降の判定:治療開始後概ね1~3か月程度で、目標達成出来ているかの判定を行います(この段階では、眼圧の判定であり、本当に治療効果が十分かは判断出来ません)。この際に、不十分と判断されれば追加治療を検討していきます。眼圧目標が達成出来ていると判断されれば、そのまま経過観察となります。
⑤治療効果の判定:緑内障の治療効果の判定=視野の進行の有無の確認のためには、定期的な視野検査が必要です(大変ですが、視野検査に代わる検査法はまだありません)。一般的には、6か月に一回行う事が多いです。治療開始前と比較して、視野の進行が許容範囲内なのかを判断します。許容範囲内であれば、現行の治療を継続するという最終判断をします。万が一不十分と判断されれば、追加治療を行います。(図1参照)

緑内障の治療方法とは
図1
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緑内障治療では、上記ステップを繰り返すことにより、治療を適宜その時の状態に合わせて変更していきます。
また緑内障は、その病型によっても治療方法が異なります。大きく分けて、開放隅角緑内障:眼の排水溝にあたる部分の線維柱帯などの経路に問題があるものと、閉塞隅角緑内障:何らかの理由で、そもそも眼の中の水が排水溝に辿り着けないものに分けられます。(図2,3参照)

緑内障の治療方法とは緑内障の治療方法とは
図3

これらは、一括りに緑内障とされていますが、治療の方向性が異なります。開放隅角緑内障は、眼の排水溝自体に問題があるため、これを改善する根本的な治療はないこともあり、点眼やレーザー・手術などの治療が必要です。一方、閉塞隅角緑内障では、排水溝以前の問題のため、排水溝自体は正常な事もあり、そのような場合には、その排水溝以前の問題を解決することで、ある意味治すことの出来る病態です(あくまで眼圧が高かったのを下げられるという事に限ります。巷で緑内障が治ったというのはこちらかと思われます)。排水溝以前の問題に対する現状一番効率的な解決方法は、白内障手術と言われています。
緑内障なのに、何故白内障手術?と思われるかと思います。排水溝以前の原因としては、いくつか原因は言われていますが、その中に白内障の進行が挙げられます。成人の水晶体は前後が5-6mm程度ありますが、白内障手術後に入れる人工のレンズはその半分以下です。そのため、スペースに余裕が出来て、排水溝以前の問題が解決されます(図4参照)。

緑内障の治療を進めていく上では、上記の様にご自身の病型、どの程度悪いのか、どの程度の眼圧を目標としているかなどを把握しておく事が非常に重要となります。

低侵襲緑内障手術(MIGS : micro invasive glaucoma surgery)

従来の緑内障手術とは
緑内障治療の治療としては、眼圧を下げることにより、視力・視野の悪化を可能な限り抑制することを目的としています。緑内障の手術は、患者さんご本人の眼の中にある水の排水溝に当たる線維柱帯(図5)を切ることで治療する線維柱帯切開術と、線維柱帯以外に新たに眼の中の水の排出路を形成する線維柱帯切除術(濾過手術)に分けられます。
従来のこれらの緑内障手術の方法では、白目の部分に当たる結膜や強膜を切る事が必要であり、手術に要する時間も1時間程度はかかるため眼科の手術の中では長く(白内障は15分程度)、手術時の傷が大きいため治りが遅く、術後の視力などの回復に時間を必要としていました。また、入院期間も1週間程度は必要とし、さらに手術を行う事自体により今以上に視力・視野が悪化してしまう可能性もある負担の大きい治療でした。そのため、緑内障手術は、点眼など負担の少ない治療が無効な際の最後の手段という側面がありました。
従来の緑内障手術とは従来の緑内障手術とは
図5
低侵襲緑内障手術(MIGS)とは
低侵襲緑内障手術(以下MIGS)は簡単に表現すると、従来の手術よりは傷が小さいため治りが早い手術の事を指します。世界的に行われているMIGSには、以下のものが挙げられます。
線維柱帯切除術:XEN(ゼン)、Microshunt(マイクロシャント)
線維柱帯切開術:Trabectome(トラベクトーム)、カフークデュアルブレイド、
Hydrus(ハイドラス)、μフック(マイクロフック)、スーチャートラベクロトミー
その他:iStent(アイステント)
日本で行われているMIGSとしては、線維柱帯切開術と、iStentが挙げられます(残念ながら、まだ線維柱帯切除術に分類されるMIGSは行う事は出来ません。)
日本で行われているこれらMIGSの共通の手技としては
①白目にあたる結膜・強膜に傷をつけない
②黒目に当たる角膜に2~3mm程度の傷を作る
③膜に作った傷口から器具などを入れて、線維柱帯を切るまたはインプラントを挿入・固定する
といった手順で行われ、従来の手術方に比べて手術の手順が少ないため、比較的短時間(15-30分程度)に手術が終了するようになりました。また、眼に作る傷も少ない事から、術後の視力・視野の悪化も最低限となり、傷の治りも早くなり、日帰りまたは短期入院(3-4日)で手術が行えるようになりました。当グループでは、トラベクトーム・マイクロフック・iStentを実施しています(手術の術式や適応などの詳細は各項目をご参照下さい)。(図6参照)

図6MIGS各術式比較

術式 眼内ドレーン挿入術 線維柱帯切開術
使用
器具
iStent トラベクトーム マイクロフック カフーク
デュアルブレイド
スーチャー
トラベクロトミ―
適応 白内障手術と同時のみ点眼本数は少なめ、眼圧が高くない方 線維柱帯原因で眼圧が上昇している方、眼圧が高めの方(>20mmHg)
特徴 合併症が極めて稀 水を流しながら手術が
出来るため、
手術が安全に行える
小さいため
取り回しがよく、
広範囲切開出来る
線維柱帯を
幅広く切開出来る
同一の傷口から
360°切開する
ことが可能
注意点 眼圧下降は限定的 術後出血が30%程で認め、一時的な見づらさや眼圧上昇を認める事があります
使用器具 眼内ドレーン挿入術
使用器具 iStent
適応 白内障手術と同時のみ点眼本数は少なめ、眼圧が高くない方
特徴 合併症が極めて稀
注意点 眼圧下降は限定的
使用器具 線維柱帯切開術
使用器具 トラベクトーム
適応 線維柱帯原因で眼圧が上昇している方、眼圧が高めの方(>20mmHg)
特徴 水を流しながら手術が出来るため、手術が安全に行える
注意点 術後出血が30%程で認め、一時的な見づらさや眼圧上昇を認める事があります
使用器具 線維柱帯切開術
使用器具 マイクロフック
適応 線維柱帯原因で眼圧が上昇している方、眼圧が高めの方(>20mmHg)
特徴 小さいため取り回しがよく、広範囲切開出来る
注意点 術後出血が30%程で認め、一時的な見づらさや眼圧上昇を認める事があります
使用器具 線維柱帯切開術
使用器具 カフークデュアルブレイド
適応 線維柱帯原因で眼圧が上昇している方、眼圧が高めの方(>20mmHg)
特徴 線維柱帯を幅広く切開出来る
注意点 術後出血が30%程で認め、一時的な見づらさや眼圧上昇を認める事があります
使用器具 線維柱帯切開術
使用器具 スーチャーロトミー
適応 線維柱帯原因で眼圧が上昇している方、眼圧が高めの方(>20mmHg)
特徴 同一の傷口から360°切開することが可能
注意点 術後出血が30%程で認め、一時的な見づらさや眼圧上昇を認める事があります

線維柱帯切開術(トラベクトーム、マイクロフックなど)とは

眼の排水溝にあたる線維柱帯を器具(トラベクトームやマイクロフック)などで切開することにより、房水の流れを良くなり眼圧を下げる手術方法です。線維柱帯は眼を見た時に、角膜と白目の境に相当する所に360°存在しています。手術では、90~360°の切開を行います。この手術の利点は、あくまで元来の眼の構造である線維柱帯を切開する手術であることから、手術による眼に対する負担は少なく、失明に至るような合併症は稀です。しかし、術後には程度の差はあるものの眼の中に出血するため、一時的に見づらくなることや、眼圧が上がってしまう事がありますが、基本的に時間経過で改善します。また、あくまで患者さんご自身の眼の排水溝を利用する手術ですので、排水溝そのものの機能が悪い場合には、手術の効果が出ないことがあります。

線維柱帯切開術の適応

あくまで眼の排水溝の蓋にあたる、線維柱帯を切開する手術ですので、限界があります。線維柱帯の目詰まりなどで、流れが悪くなっている方(排水溝の蓋が目詰まりしている状態)には、効果が得られやすいと言われています。しかし、先述の通り、排水溝のそのものが詰まっている場合には、手術効果は得られにくいことがあります。他にも、排水溝自体にも10~15mmHg程度の圧がかかっていると言われていますので、この眼圧以下に下げたい方には不向きであり、元からある程度眼圧が高い方(20mmHg以上)がよい適応とされています。
また、この手術は白内障手術と同時に行う事が可能であるため、1回の手術で同時に治療することが可能です。ですが、抗凝固薬(血液をサラサラにするお薬)を内服している方の場合、術後の出血が長引く可能性があり、事前の休薬が必要になる場合があります。出血しやすい病気をお持ちの方の場合、手術が不向きである場合があります。

線維柱帯切開術の手順

①角膜に器具を挿入するための傷口を作成
②患者さんの頭と顕微鏡を傾けて、特殊なレンズを眼にのせて、線維柱帯を確認する
③器具(トラベクトームやマイクロフック)を傷口から入れ、レンズ越しに、線維柱帯に器具の先端を入れ、切開を行う
④切開後は器具を出したのち、眼の中の出血を洗い、傷口を整えて手術は終了します。

120°程度の切開であれば、上記が15分程度で実施出来ます。

Trabectome(トラベクトーム)

線維柱帯をトラベクトームという器具を用いて切る手術の事です。トラベクトームの最大の特徴は、手術器具に水を流して眼の中を洗う機能が付いていることです。他の線維柱帯切開術の器具では、線維柱帯を切っている間に出血して見づらくなってしまうため、十分に切れない可能性があります。しかし、トラベクトームでは切ると同時に眼の中を洗浄しているため、出血に邪魔されることなく広範囲の切開が可能です。

マイクロフック

こちらは、線維柱帯の切開を谷戸氏マイクロフックという器械(先端がフック状に湾曲した特殊な形状の細い金属の器具です)で行う手術です。この器械には、水を流す機能はついていませんが、器具が細く軽いため取り回しがよく、一つの傷口から比較的広い範囲、120~180度(全体の1/3~1/2)にわたって切開が可能です。また白内障手術と同時手術の際は、白内障手術の傷口から手術が行えるため(トラベクトームの時には、別の傷口を作るときもあります)、比較的傷を少なくすることが可能です。

iStent(アイステント)を用いた眼内ドレーン挿入術

他の線維柱帯にアプローチする手術との違い

他の線維柱帯にアプローチする手術との違い
トラベクトームやマイクロフックと同様に、線維柱帯に対して行う術式です。トラベクトームなどは、眼の中の排水溝の蓋にあたる線維柱帯を広範囲切ることにより、切った部位からの流れをよくする術式です。
広範囲に線維柱帯を切るため、眼圧を下げるにはある程度効果的でしたが、術後の出血などを起こす確率が30%程はあるとされ、手術後一時的にかえって見づらくなり、眼圧も一時的に上がってしまうことがあるのが欠点でした。また、数%は手術の影響で視力・視野が悪化する可能性がありました。
それに対して、iStentは線維柱帯に金属で作られたインプラントを1つまたは2つ設置することにより、インプラントの部分からの水の流れをよくする手術方法です(図8参照)。
あくまで線維柱帯を切る事はせずに、インプラントを設置するだけのため、眼に作る傷が少なく、術後の一時的な出血やそれに伴う眼圧が上がることは非常に稀となりました。その結果、傷の治りも早くなりましたが、その代わりに眼圧を下げる効果は少ないです。そのため、従来であれば緑内障の手術は必要ではないけれど、もう少し眼圧を下げておきたい方や、点眼の数を減らしたい方に実施することが多い手術です。

iStent(アイステント)を用いた眼内ドレーン挿入術
図8
iStentの手順

①まず通常どおり白内障手術を行います
②患者さんの顔と手術用の顕微鏡を傾けて線維柱帯を見る隅角鏡を眼に載せます
③iStentを眼の中に入れ、線維柱帯に1つまたは2つ挿入・固定します
④iStentの固定が問題ないことを確認して手術は終了です
通常の白内障の手術より、+5~10分程度で手術は終わり、特に痛みなどもありません。

iStentが向く患者さん
日本では、トラベクトームなどの線維柱帯切開術とは異なり、iStent単独で手術を行う事は出来ません。あくまで白内障手術と同時にのみ行う事の出来る手術です。
原則的な手術適応としては以下の①~③がいい適応と考えられています。
①そこまで緑内障が重症でないこと(初期から中期程度・視力はいい方など)
②点眼は1~2剤程度であること
③眼圧がそこまで高くないこと(出来れば20mmHg以下)
一言で表現するなら、かかりつけの先生から、緑内障は点眼でとてもよく落ち着いているけれど、白内障手術を勧められている方がiStentの適応になるのではないかと思います。
緑内障で点眼を1~2本さされていて、白内障で見づらく感じている方は、かかりつけの先生と一度相談してみてもいいかもしれません。

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眼科専門医 高木 勇貴
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高木 勇貴
現状、緑内障は根本的な治療が出来ず、放置すれば失明する危険のある病気です。しかし、早期発見、適切な治療により、そのリスクを低減することも可能な病気です。ご家族に緑内障の方がいる方や近視の強い方などは、定期的な検診をお勧め致します。

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