白内障手術で使用する眼内レンズの世界を解説。

白内障事典
「見える扉」を開くために。

歳を重ねるにつれ、発症率が高くなる
白内障は、身近な眼疾患と言えます。
白内障事典は、約80,000件もの白内障手術の
実績を持つ専門医が、
白内障と
その治療法について解説します。
白内障で悩んでいる方の
「見える扉」を開くために。

眼内レンズ

目の水晶体の役割を果たす人工のレンズ

白内障手術では、目におけるレンズの役目を果たしている水晶体を取り除いてしまうため、そのままではピンボケの状態になり、分厚いメガネをかけないと物がはっきり見えなくなってしまいます。そのため、手術で水晶体を取り除いたあと、目の中に人工のレンズを挿入します。これが「眼内レンズ」です。
白内障の手術を正しく理解するためには、手術法だけでなく、眼内レンズについてもきちんと知っておくことが重要になります。

 

眼内レンズは、直径6ミリ程度のレンズの部分と、それを眼内で固定するふたつの支持部で構成されており、非常に小さなものです。以前は、PMMAというプラスチックの硬い素材でできていたため、レンズを目の中に挿入するために大きな切開口を作る必要がありましたが、現在では折りたたみが可能なやわらかい素材のレンズが主流になり、約2〜3ミリの小さな切開口からレンズを挿入することができるようになりました。素材にはシリコン製とアクリル製があり、アクリル製は長い年月の間に劣化するのに対し、シリコン製は劣化が少ないとされています。

 

眼内レンズは、レンズから足のように伸びる支持部がレンズと一体で成形されたシングルピースと、支持部がレンズに個別に取り付けられたスリーピースとがあり、国内のレンズメーカーがそれぞれ特徴を持つレンズを製造しています。しかし、すべてのレンズを熟知している医師は少なく、多くの医師は、自分が使い慣れたメーカーのレンズの中から、患者さまに適したレンズを選択しています。

 

眼内レンズは、白内障の手術後、水晶体の代わりになるもので、若い頃の水晶体と同等の役割を果たすことが理想です。もちろん人工のレンズですから、水晶体が持つすべての機能に取って代われるものではありませんが、近年、この領域の技術は目覚ましい進歩を遂げており、単に濁りを取るだけでなく、より質の高い見え方を達成できるような付加価値がついた眼内レンズが実用されています。

 

眼内レンズ

眼内レンズの種類

白内障の手術を受ける方は、手術前に眼内レンズについて医師と相談することになっています。聞き慣れない専門的な用語も多く、つい医師任せにしてしまう方も多いのですが、ぜひ、それぞれのレンズの長所と短所をきちんと理解したうえで納得できるレンズを自分で選んでいただきたいと思います。

 

●見る対象の距離を絞るなら「単焦点眼内レンズ」

単焦点眼内レンズは、保険診療が可能な、一般的な眼内レンズです。保険がきくので最も安価ではありますが、遠くか近くか(あるいはその中間か)1箇所しかピントが合わないため、ある距離にピントを合わせたら、それ以外の距離のものを見るときにはメガネで調節しなくてはなりません。
例えば、普段から遠くを見るほうが多いという患者さまは、遠くにピントを合わせるので、新聞や本を読むときなど手元を見るときには、老眼鏡が必要となります。

 

●遠近両用でメガネいらずの「多焦点眼内レンズ」

単焦点眼内レンズが2箇所にピントを合わせるのに対して、焦点の数がふたつ以上あるため、遠近両方にピントが合うのが多焦点眼内レンズです。保険診療外ですが、先進医療の対象となっていますので、先進医療を実施する医療機関で手術を受ければ、検査など保険診療が適応される部分に限り、保険診療で手続きしてくれます。
多焦点眼内レンズは、「メガネをかけずに遠くも近くも見えるようにしたい」という多くの患者さまの希望に応えるために開発された眼内レンズで、手術後、メガネを使う頻度が減り、人によっては、まったくメガネなしで生活できるようになることもあります。
しかし、多焦点とはいえ、複数の焦点をあらかじめ設定するもので、若い頃のようにどの距離にも自在にピントを合わせられるわけではありません。場合によっては、メガネをかけたほうが楽に物が見えることもあります。
特に長時間の読書や細かい文字を読むときは、メガネをかけたほうが楽なことが多いようです。また、現在国内で認可を受けた多焦点眼内レンズには、乱視矯正効果はないため、角膜に強い乱視がある方には適切ではありません。

 

●色が自然に見える「着色眼内レンズ」

目の水晶体は完全に透明ではなく、少し黄色味を帯びています。年齢とともに、その程度は増していくので、青色に近い色の光は年齢とともにある程度カットされて感じるようになります。多くの眼内レンズは透明で、紫外線以外の光はすべて通過します。このため、手術後には青い光を以前より多く感じるようになり、見え方に違和感がある場合があります。
着色眼内レンズは、そうした違和感を抑え、見え方をより自然に近づけるために、レンズにある程度の着色を施しています。単焦点眼内レンズでも多焦点眼内レンズでも、着色レンズにすることは可能ですから、単焦点眼内レンズを選択すれば保険診療、多焦点眼内レンズを選択すれば、自由診療または先進医療制度の診療となります。

 

●より鮮明な視界が得られる「非球面眼内レンズ」

通常の眼内レンズの場合、レンズ中央部を通る光と、レンズの周縁部を通る光は、ピントの合う位置が少しずれるため、見る対象物が少しぼやけます。このことを「収差」と言いますが、非球体眼内レンズは、レンズ表面が特殊なカーブをもった形状になっているため収差が抑えられ、より鮮明な視界を得ることができます。
保険診療の単焦点眼内レンズ、保険診療外の多焦点レンズ、どちらでも非球体レンズにすることができます。

 

●乱視が矯正できる「トーリック眼内レンズ」

通常の白内障手術をした場合、水晶体に原因がある乱視は軽減することができますが、角膜に原因がある乱視は残ってしまいます。このため、手術後にメガネで乱視を矯正する必要がありました。
トーリック眼内レンズは、メガネのように乱視を軽減する効果をもっているため、角膜が原因の乱視でも矯正することができ、手術後にメガネなしでもよく見えるようになります。
保険診療が適用されるレンズですが、レンズが高額なために医師が敬遠しがちで、取り扱わない医療機関もありますので、この眼内レンズを検討される患者さまは、事前に医師に相談してください。

 

●左右の目のピントを変える「モノビジョン法」

多焦点眼内レンズとは別に、特殊な方法を使って手術後メガネなしの生活が送れる可能性のある方法に、モノビジョン法があります。
これは左右の眼内レンズの度数を調整し、一方の目のピントを遠くに、もう一方を近くに合わせる方法です。左右の目がそれぞれ遠くと近くを認識するため、両目で見たときに遠くも近くもある程度見ることができます。
ただし、左右での視力差が出てくるため遠近感が掴みにくく、また、色・明るさ・輝度などの差違(コントラスト)が低下するといった問題もあり、誰にでも適した方法とは言えません。希望する場合は、医師の十分な説明と、患者さま自身の理解が必要です。
モノビジョン法は、多焦点眼内レンズ同様、メガネの使用頻度を減らしたいという方にとっては選択肢のひとつと言えます。多焦点眼内レンズと違って保険診療適用の手術が可能ですが、選択の判断は、医師から正し 情報を得た上で、特性を理解し、十分納得してから決めてください。

ライフスタイルに合わせた眼内レンズの選び方

多種多様ある眼内レンズの中から、どのタイプを選択するべきかポイントをまとめておきましょう。
眼内レンズを決めるうえで最も重要なのは、自分のライフスタイルに合った眼内レンズを選ぶことです。仕事などで遠くが見えないと困るのか、それともほとんどがパソコンに向かう作業などデスクワーク中心の生活なのか、あるいは、ほぼ毎日クルマの運転をしているのかなど、一人ひとりの生活パターンによって、適している眼内レンズは異なります。
眼内レンズは、いったん目に入れてしまうと、よほどのことがない限り、取り替えることはなく、一生使用するものですから、医師とよく相談して、慎重に選んでいただきたいと思います。

 

●便利な距離にピントを合わせてメガネを使用

単焦点眼内レンズを想定して、クルマを運転するときなどの遠方用、読書をするときなどの近接用、あるいはパソコンに向かうときの中間用など、いずれかの距離に合うピントを選び、それ以外の距離に対応するためメガネを併用するパターンを考えます。
例えば、家の中でパソコンや読書をすることが多く、近くにピントを合わせたほうが便利だという方は、単焦点眼内レンズを短い距離の焦点にして、外出するときや遠くを見るときにはメガネを使用するようにします。
また、パソコンの作業距離は通常40センチ〜50センチと言われていますから、仕事などで常にパソコンを使用し、手術後に裸眼でのパソコン作業がしたい場合、眼内レンズの度数を調整して、ピントの距離を40センチ〜50センチに合わせます。

一方、仕事などで遠くを見ることが多く、遠くにピントを合わせたほうが便利だという方は、単焦点眼内レンズのピントを遠くに合わせて、近くの書類や新聞を読むときなどは、老眼鏡のような手元専用メガネを使用することになります。
どちらも、メガネが必要という不便さはありますが、それによって遠いところも近いところも、きちんとピントを合わせてはっきり見ることができます。手術前から近視や老眼などのメガネを併用している方で、特に不便を感じないのであれば、問題はないでしょう。
また、もともと強い近視だった方は、眼内レンズによってピントを調節することができるため、それまで使っていたメガネなどの度数を弱めることもできるのです。

 

●メガネなしの生活をしたいなら多焦点眼内レンズ

多焦点眼内レンズは、いわゆる遠近両用のレンズで、単焦点眼内レンズと異なり、遠くを見るときも近くを見るときもメガネは必要ありません。手術前からほとんどメガネをかけたことがない方や、仕事の関係などで、遠くも近くもメガネなしである程度見えるようにしたいという方に適しています。
ただし、中には多焦点眼内レンズの装着が向かない方もいますので注意してください。多焦点眼内レンズは、遠近どちらも「ある程度」見えるのですが、過敏な方にとっては、100%満足できないこともあります。焦点をひとつに絞っているわけではないため、単焦点眼内レンズほどシャープに見えないからです。手元での細かい作業や精密さが求められる仕事をする方は、きちんとピントの合う単焦点眼内レンズが適していると言えるでしょう。

眼内レンズで派生する付加効果

白内障手術は、視力を回復させるために行われる手術ですが、近年、この手術から派生する効果として、高血圧や不眠症といった高齢者にありがちな症状が、手術後軽減されたという例が報告されています。
私たち中京グループの研究においても、手術前に高血圧や不眠症などを訴えていた患者さまが、白内障手術を受けた後、症状が正常化したという例もあり、白内障と全身症状との関係が注目を集めています。
白内障手術をきっかけにして、手術前と手術後で視力回復以外の症状が変化する原因については、おそらく、目に入る光の変化が要因になっているのではないかと考えられています。

 

●不眠症の軽減

不眠症の原因のひとつに、体内時計の乱れがあります。人は誰でも体内に1日のリズムを刻む体内時計を持っています。夜になると自然に眠くなり、朝が来ると目が覚めるのも、体内時計が働くからです。これを、1日24時間周期を刻む「概日リズム」と言います。
この体内時計は、目の中の「メラノプシン光受容体」という神経細胞によって働くもので、光を感じると、その信号を脳に送って朝夕の概日リズムを制御しています。

ところが、白内障によって光が不足すると、うまくこのリズムをコントロールできなくなってしまい、不眠症などの睡眠障害を引き起こすのです。手術によって水晶体の濁りが取り除かれると、目の中に光がたくさん届くようになります。すると、脳にも信号がきちんと送られるようになり、概日リズムがしっかりと制御されるようになります。このため不眠症が軽減されるのではないかと考えられています。

 

●高血圧の抑制

高血圧は、光の色による影響が考えられます。眼内レンズの中でも着色眼内レンズには、血圧を抑える効果があるのではないかと考えられています。事実、私たち中京グループの研究でも、白内障手術時に黄色の眼内レンズを挿入した方で、血圧が下がった例が確認されています。
血圧と光との関係については、さまざまな研究がされていますが、健康な方でも、同じ明るさの蛍光灯の部屋と電球の部屋では、電球の部屋のほうが血圧が下がることが報告されています。
こうしたことから考えると、高血圧に不安のある患者さまは、白内障の手術時に黄色の着色眼内レンズも選択肢のひとつに加えることも考えられるのではないでしょうか。

進化を続ける高性能眼内レンズ

白内障手術は、白内障による水晶体の濁りを取り除き、視力を回復させるだけにとどまらず、さまざまな可能性を持った治療法となりつつあります。中でも目覚ましい進化を遂げているのが眼内レンズです。 海外では高性能で付加価値の高い眼内レンズが多く開発されています。残念ながら、日本では医療機器として厚生労働省の承認を得ていないレンズもありますが、医師の責任と判断によって、海外から高性能な眼内レンズを取り寄せて使うこともできます。

 

●プレミアム眼内レンズ

焦点が複数ある多焦点眼内レンズをはじめ、さまざまな付加価値のついた眼内レンズのことを「プレミアム眼内レンズ」と呼びます。多焦点眼内レンズの他には、乱視が矯正できるトーリック眼内レンズもプレミアム眼内レンズです。
海外に目を向けると、「トリフォーカル(三重焦点)眼内レンズ」という、遠中近3箇所に焦点が合うプレミアム眼内レンズがあります。焦点が2箇所のものと比べると、焦点合わせの自在性が高まり、よりクリアな視界を得ることができます。

トーリック眼内レンズも、海外では強度の乱視でも矯正可能なレンズや、乱視だけでなく、乱視と老眼を同時に矯正できるトーリック多焦点眼内レンズもあります。 さらに、より汎用性の高い「後のせ」が可能な眼内レンズもあります。白内障の手術で単焦点眼内レンズを挿入した後、老眼が進行した場合、単焦点眼内レンズの上に、後のせ可能な遠近矯正レンズを乗せれば、老眼鏡なしで生活することが可能になります。

 

●オーダーメイド眼内レンズ

海外のプレミアム眼内レンズは、ほとんどがオーダーメイドとなっています。つまり、眼科医が患者さまの目の大きさや屈折率を計測し、その情報をメーカーに送って、患者さまの目にぴったり合うレンズを設計・製造してもらうのです。既製品と異なり、手術後、高い満足感が得られることは間違いありません。

白内障事典 監修
医学博士

市川 一夫

医療法人いさな会 中京眼科 視覚研究所 所長
独立行政法人 地域医療機能推進機構 中京病院 眼科 顧問

医学博士 市川一夫

1978年、愛知医科大学医学部医学科卒業。
1983年、名古屋大学大学院医学研究科博士課程(外科系眼科学専攻)修了。
社会保険中京病院眼科医長を経て、1986年、同院眼科主任部長に就任。
眼科医療では、一般的に年間200〜300件の白内障手術を行う医師の中、年間3,000件以上の白内障手術を執刀し、生涯執刀数は80,000件を超える。

また、1994年、社会保険中京病院眼科を中核とした、病院・クリニックグループを支援する、株式会社中京メディカルを設立。眼科専門医の指導、育成にも尽力し、年間約14,000件の手術指揮を行う。
さらに、国際医療支援活動にも積極的に取り組み、毎月海外で白内障手術を執刀。
現在、名古屋大学医学部臨床講師、北里大学医学部眼科非常勤講師、大連医科大学客員教授も務める。

ページの先頭へ